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製品開発ストーリ #22
取材/文 :
翻訳 :
Sound & Recording Magazine 編集部
川原真理子
APOGEE
音楽制作に重要な位置を占める楽器やレコーディング機器にまつわる 開発秘話をお届けしているこのコーナー。今回は、ミュージシャンやエンジニアから 高い評価を受けているAD&DAコンバーターで有名なAPOGEEを紹介しよう。

APOGEEの名を知らしめたADコンバーター、AD-500。後にインプット・ モジュールを増設したAD-500Eも発売された


 現在の音楽制作において、デジタル・マルチトラック・レコーダーをはじめとするデジタル機器は欠かすことのできないものになっている。そして、16ビット/44.1kHzというCDフォーマットが一般的になるとともにクローズ・アップされてきたのが、デジタルとアナログの世界の架け橋となるAD&DAコンバーターだ。

 このコンバーターの世界で非常にクオリティの高い製品をリリースし、エンジニアやミュージシャンから信頼を得ているのがAPOGEEである。最近、APOGEEはUV-1000という、独自のコンセプトに基づいたスーパーCDマスタリング・システムを発表した。今回の "製品開発ストーリー" は、デジタル・オーディオの世界で確固たる地位を築いたこのAPOGEEを取り上げることにしよう。

APOGEEを設立して
最初の製品はフィルター

 APOGEE社社長のブルース・ジャクソン氏は、18歳でサウンド・エンジニアとしてのキャリアをスタート。バーブラ・ストライザンドやエルヴィス・プレスリー、ブルース・スプリングスティーンら数多くのビッグ・アーティストのライブ・エンジニアを務めてきたが、同時に彼は優秀なデザイナーでもあった。1974年に彼が共同設計したCLAIR BROTHERSのライブ用コンソールは、バラメトリックEQやバー・グラフ・メーターを初めて採用したケースー体型のライブ用コンソールで、サウンド・エンジニアとしての豊富な経験がデザインにも生かされたという。

 その後、ジャクソン氏の興味は次第にデジタル・オーディオへと向けられることとなった。それは、なぜ自分がデジタルの音が嫌いなのかを知りたいと思ったからだという。

 「CDが初めて登場したとき、日本のHIBINOからCDプレーヤーをもらったんで、日本でCDを買ってみた。確かにテクノロジーという点では素晴らしかったが、私にとっては髪の毛の逆立つような音だったよ。その理由を知りたいと思っていたところ、スイスのチユーリッヒで学んでいた友人のクリストフ・ハイデルバーガーから、そこの教授がユニークなフィルターを研究していることを聞いたんだ。それはコンピューター上で稼働するプログラムだったが、フィルターが重要な要素だと思ったよ。SONYのPCM-1630とPCM-3324、それにMITSUBISHIの32トラックは、まるで教科書のように設計されており、エリアシング (折り返しノイズ) の問題を避けるため90dBものフィルタリングが行なわれていたんだ。しかし、実際のオーディオ・シグナルを見ると、高周波数或ではそれほどエネルギーは無いから、あれほど排除する必要は無いと思ったね。フィルターのスロープにも問題があったし、高周波数では非常に大きな位相の狂いがあったので、私はリニア・フェーズ・フィルターを作成したんだ。そしてジョージ・マッセンバーグのMITSUBISHIのマシンや友人のPCM-3324でプロトタイプのフィルターを試しでみたら、格段に音が良くなることが分かったよ。APOGEEを設立した我々はこのフィルターを製品化し、ほとんどのPCM-3324に手を加えたし、200台以上のPCM-1630のフィルターを交換した」。

 85年に設立されたAPOGEEは、25,000ユニットも製造されたこのフィルターで広く業界に認知されるようになる。マーケットの規模を考えると、これは非常に大きな成功だった。そして次なるターゲットはジッター (インピーダンスや電気容量の不整合、不十分な周波数特性により音楽データの正確なビット列が破壊されてしまい、ステレオ感が損なわれたり音色が変化すること) だった。彼らが制作したLow Jitter Clockは、AMS、DIGIDESIGNといったメーカーが採用している。現在この分野に関しては、C768という新製品を開発中だということだ。

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