
スムーズなサウンドになるということは、ビットが動き回っている (ダンシング・ビット) からなんだ。例として、ライトのスイッチを挙げよう。通常のデジタルだとオンとオフの2つしかないが、オンとオフを素早く切り替えれば点滅さえも見えなくなり、その中間の明るさが得られるんだ。75%オン、25%オフというように切り替えれば、ライトは75%の明るさになる。こうしたテクニックで、階段状の波形でも滑らかにすることができるんだ。さらに利点として、既にマスタリングされた16ビットの素材でも、このダンシング・ビットを加えるとサウンドは良くなる。たとえ安いプレイヤーでもクオリティは上がるんだ」。
このダンシング・ビットが、音楽に余計なものを付け加えてしまう恐れはないのだろうか?
「それはないね。サウンドが別のレベルになるのではなく、階段状のものをアナログのように、より連続したものにするんだ。しかも効率もいい。これは18kHz〜22kHzに信号を加えているのだが、それはノイズでなく、非常に珍しいシグナルだ。波形はノイズのようには見えないよ。デジタルとミックスするわけだから、実際にはそのサウンドは聴こえない。20ビットのオーディオが入力されてこの特別なシグナルとミックスされ、16ビットのCDフォーマットにするためにビットが切り放される。その切り放されたビットがダンシン
グするんだ」。
ビット・レゾリューションやサンプリング周波数を上げることがデジタルの世界においてはどれくらい有効なのかも、ジャクソン氏に質問してみた。その答えは、以下の通りだ。
「まず、気を付けなくてはならないのは、スペックの見方だ。24ビットと書いてあって、実際に24ビット分の情報が入っていたとしても、ビットの意味合いに気を付けなくてならない。100ビットにすることだって可能だろうが、オーディオという観点からどのビットが重要かを見極めなくてはならない。現実に、20ビットのレゾリューションは存在するが、20ビットのパフォーマンスは実際には存在しないんだ。最後の2、3ビットはマーケティング用のビットで、セールス上有利だから存在しているだけだよ。もし本当の20ビットが存在するならダイナミック・レンジは120dBになるはずだが、それを実現した人はまだいない。サンプリング・レートに関しては、サンプル・レート・コンバーターによって音が変化することが報告されている。48kHzから44.1kHzへ、または96kHzから44.1kHzへサンプル・レートをコンバートする必要がある場合、一流エンジニアはアナログ経由で行なっているよ。デジタルは完璧だと思われているが、実はそうではないんだ。デジタルはアナログより良いのではなく、アナログと同じくらいにしか良くならないんだよ」。
このUV-1000のプロトタイプは、ロジャー・ニコルスがドナルド・フェイゲンの『カマキリアド』で使用。ボブ・ラドウィック、テッド・ジョンソンいったマスタリング・エンジニアたちも、UV22のパフォーマンスを絶賛している。
教科書通りの設計をせずに 独自の製品を開発
APOGEEは、フィルターやクロック、パワー・サプライに関して,ほかのメーカーとは異なる方法を選んできた。こうしたアプローチは、ジャクソン氏が実際にさまざまなミキシングを手掛けてきた経験に負うところも大きいようだ。
「エンジニアリングでは一般的なパス(道)を、お互い情報交換しながら進むのが常とされている。だが我々は信念を曲げなかった。サウンド・エンジニアは、機械的でなく自分の感覚を信じてミキシングを行なうものだ。幸いにも我々はエレクトロニクスを使って良い音を出す方法を知っている。自分たちがどこへ行き着こうとしているかを敏感に察知して、その方向を目指しているんだ。単に教科書通りの設計することが間違っている場合もあるということを、我々はまずフィルターで証明したんだこそれがAPOGEEの本質なんだよ」
APOGEEのサウンドへのこだわりは、新しく発売された "WydeEye" ケーブルからもうかがえる。これはデジタル・オーディオ・データを転送する際に発生する問題を解決するために設計されたAES/EBU規格対応のケーブルで、伝送時の損失とジッターを最小に抑えることができるという。このケーブルを含めAPOGEE製品は独特のカラーリングも特徴となっている。これもサウンドと関係しているのだろうか?
「紫が好きなんだ (笑)。スタジオの機材は、大抵はつまらない黒やシルバーばかりだからね。それに、APOGEE製品だとすぐに分かるだろう?」
終
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